深大寺そば行脚

 

 

 

わが町調布には深大寺という名刹がある。その門前に「深大寺蕎麦」をうりにしたそば屋がひしめき合っている。

私のお気に入りは「湧水」という店だが、最近よく通っているのでご主人ともお話をさせてもらえるようになり、いろいろ深大寺について伺ってみた。現在深大寺には24軒のそば屋があるとのこと。湧水さんを知ってからというもの他の店から足が遠のいているし、まだまだ入ったことのない店のほうが多い。ここはひとつ、実際に自分で一店一店確かめてみようと思い立った。ネットで検索したりすると、同じような試みをすでに実行している方もいるし(深大寺蕎麦オフィシャルサイト)、書籍で紹介されていたりする。しかしながら味の好みは人それぞれ違うもの、ここは自分の好みということでの「そば行脚」をする。

 ただし、各店公平を期すために条件を揃えなくてはならない。すなわち、基本の味ということで「もり」一本で行く。あ、それとビールね(呑み助なんで許してちょ。飲み物の価格の参考にもなるんで)。もりを食べて美味しいと思った店は再度訪れて天ぷらなど他のメニューも追々紹介するが、もりがまずけりゃその店は打ち止めとする。

 それと、一日に数軒の梯子はしない。続けて食べるとどうしても腹が膨れ公平な審査にならないからである(なんて公平なんだ!)

 また、上記のごとく既に多数の人が実行しているので、中には酷評されている店もあるが、それもまた確認するため敢えて挑戦する(本当になんて公平なんだ!)。深大寺周辺という視野でいくと、少し離れれば登録商標を掲げたチェーンのそば屋もあるが、今回は外させていただく。また、組合加入はもう一軒あり総数25となるのだが、そこは精進料理の店で、会席の一品としてそばを出しているので専門店でないということで外させていただいた。

 文中、「そば」、「蕎麦」のひらがな・漢字両方の表記が出てくるが、私はひらがな表記が好きなので基本的にはこちらを使用するが「深大寺蕎麦」のように固有名詞的なっている場合はそのまま漢字表記する。表題には「深大寺そば行脚」とひらがなを使用しているが、これは「行脚」にかかっているとご理解いただきたい。

 また、基本的に味覚はひとそれぞれです。旨い不味いは一人一人違います。この行脚の評価はあくまでも「私の好み」によるものとあらかじめご了承ください。

 それでは、はじまり、はじまり〜。

 

 

 

追記

 

この記事は書いたのはアップした時期とリンクしますが、必ずしもその当時の記憶とは限りません。

それ以前の記憶をたどって書いたものもあります。

深大寺も店により代替わりもするし、有名になりすぎたり、宣伝により黙っていても客が来るようになり、この十年でもずいぶん変わってると思います。

 

私が子供のころの40年前、名店と言われていた店もどうも今やら違ってきてるようです。

 

あくまでも、私が子供のころから十数年前までの記憶を元にしている記事と思ってください。

 

 

ランキング

深大寺蕎麦ランキング(現在でのものです。新しい店はその都度更新)

特Aクラス

湧水、松葉茶屋 、

Aクラス 

玉乃屋 、雀のお宿(やや値段高し)、深水庵

Bクラス 

大○○屋、一○庵、元○○○屋 、八○(ABの中間を漂う)、
陣○(そばはAだが値段高し)、玉○

Cクラス 

き○し、門○そ○ 、多○、鈴○、○福○屋(食後の葡萄に免じて)
時○茶○(閉店)、深○茶○、青○屋

Dクラス

 

 

特A:そばを食べるために深大寺にわざわざくる価値のある店

A :深大寺を訪れたときには一度はぜひ寄って欲しい店

B :格別深大寺でなくても食べれる普通の店

C :俗に「観光地にありがちな味」の店!

D :?恐いもの見たさ、度胸試しが好きな人向けの店

 

 

 

注意:これはHP解説以前の記録がほとんどです。

最低でも10年以上たってます。

それだけたつと、私の体験、特に小学生・中学生時代の

味とは(三十数年前)とは違うと思います。

あくまでも、最低10年前の店の味と思ってください。

今も美味しい店もあれば、観光地化して「?」という店も当然

あると思いますので(2011.2月追記)

 

 

 

深大寺山門

 

 

き○し

 

「旨い」と評判の店があれば実際に言ってみて確かめるのが食道楽。と、いうことは逆もまた真なり、「まずい」というのであっても実際に確かめるのが食道楽?てなわけで、入ってみました。(実はネットなどでは両極端なんです、こちら)

店はなんとなく雑然とした感じ。オバサンが二人店内でお運びをしているが、なんかもたついた感じで客あしらいは下手。白いあごひげを伸ばしたじいさんが厨房で蕎麦をゆがいているが、やはり伸ばしたひげ面のじいさん(失礼)は食い物屋にはふさわしくない。

出てきたもり蕎麦(650円)は平打ちの太麺。ちょっとしたきしめんくらいあった。国産の新蕎麦粉を九割使っているというのに、蕎麦の香りはほとんどない。箸でつまむと長さが揃っていなく、しかも短く切れている。麺打ちの段階で厚みに均等さが欠けているため、湯がいている間にぷつぷつと切れたと想像する。まるで一口サイズのような蕎麦。しかも水切りがあまく、びしょびしょ。今日の天気は台風の影響で、雨はやんでいたが湿気が多く、こういう日は水切りをしっかりしすぎるくらいしても乾く事がない。それくらい気を遣っても良い。

つゆだが、とにかく甘い。煮きりに使う砂糖の量が多すぎる。口にべったり残ってしまう。太麺に甘さばっかり絡んで少し食べただけで飽きてしまう。とにかく刻みネギをがばがば入れネギの風味で食べるしか方法はない。ネギ喰いに来たようなものだった。

私は蕎麦つまみにビール一本あっという間に呑む人間ですが、今日は中瓶一本(550円)も呑めなかった・・・。早々に引き上げてきました。

う〜む、どこかで読んだあの辛口批評、真実だった・・・、とほほ。(サイトを検索するとどっかに書いてあります、笑)

 

 

大○○屋

 

 ここもかなり昔からある店で老舗。しかしながら一度も入ったことがないので試してみることにした。

  店に入ると「いらっしゃいませ」と女性店員の声がかかる。店内六人掛け用のテーブル席がいくつかと中央に大テーブルがあり、一人客には混んでる時にはここに案内するようだ。小あがりもあり意外に客席は多いが、昔の造作なので六人座ればかなりきつきつだろう。お運びの女性は若いアルバイトのようだ。客あしらいは普通、だが若い女性ということで許そう(笑)。

さっそく、もり(¥600)とビール(中瓶¥500)を頼む。出てきた蕎麦は、細・中・太に区分するとしたら中細といったところか?こしはそこそこあり、蕎麦の香りもほんのりとする。典型的な二八である。蕎麦そのものはまあ、合格ではないだろうか。つゆにくぐらせてみる。つゆは出汁がきいていない、と、いうか、醤油がきつ過ぎる。濃すぎる。それをカバーしようとしてか砂糖を使いすぎているとみえて「甘さ」が口に残る。深大寺の老舗にはこの手のつゆが多いのだろうか?せっかく蕎麦自体は及第点をだせるのに、つゆがだいなしにしている感じがする。完全につゆの濃さ、甘さが蕎麦の風味をとばしてしまい、蕎麦を食べた気がしない。ここも私の好みではないようだ。

値段は蕎麦・飲み物とも多少他の店より安く設定されている。こだわりがなければ満足できるのかもしれない。

 

 

玉乃屋

 

 まだ小学生のころ今は亡き父と一緒に行った覚えがある店だ。父は昭和一桁生まれ、銭形警部と同じで仕事一筋で家庭をあまり顧みない人間だったので数少ない思い出となっている。そんなことがふと脳裏をよぎった。

 東京都立神代植物公園の深大寺口に面して二軒並ぶ店の一軒。垣根で仕切られた敷地の庭に緋毛氈の椅子が並び、茶店風である。お姉さんが客引きしているところなんざ江戸時代にタイムスリップしたようである。母屋にも席が多数ありそこに入ってみた。土間もあり、そこには樹齢数百年と思しき老木が店の屋根を貫いている。ロケーションは申し分ない。甘味もあり、まさに蕎麦屋というより茶店である。鬼平こと長谷川平蔵が緋毛氈に腰掛けていそうな雰囲気だ。いや、兎忠が仕事さぼって蕎麦をたぐっている方が似合うかも(人のことは言えないが、私も)。

 ここは二八の他にも変わり蕎麦(柚子やいろんな季節のものを混ぜ合わせた蕎麦)や蕎麦粉100%の十割蕎麦もある。つい十割を頼みそうになるが、今回は公平を期して二八のもりとビールにする。もりは650円、ビールは中瓶500円と深大寺標準値段。

 さて、でてきたもりは細麺で今までの中では一番色が濃い。おそらく三番粉の割り合いが他店より多いのであろう。従い蕎麦の香りは充分である。さっそく食べてみるがこしは強く風味もたっぷりで旨い。昔食べた蕎麦はなかんづくこのような味ではなかったかと、懐かしさを感じる味である。つゆはこれといって特徴はないが基本を押さえた味ではないだろうか。欲を言えばなにかひとつインパクトが欲しい。もうすこし鰹出汁をきかすと冴えるのではないか?

 ロケーションといい、蕎麦といい深大寺に訪れた人にお薦めできる店である。ここなら充分深大寺を堪能してもらえるのではないだろうか。次回は十割蕎麦を楽しんでみたい。野草の天婦羅も試してみたいが、「鴨汁」の張り紙に興味が湧く。酒呑みの習性か!

 

注:実は今年(2004年)に入り、とあるメールをいただきました。

このコラムを読まれた方が実際に湧水さんとこちらを試してくださいました。湧水さんについては私の感想通りの喜びのメールをいただき、私も大いに面目を保ちました。

しかし、この店についてはこんな「おしかり」とも言える内容で、実に心苦しい思いをしました。

 

混雑時ではありましたが、まず「代金引換」(はっきりいって雰囲気ぶち壊しですね、これじゃ)、なおかつ「出汁の味も香りもない」とのことです。上に書いたとおり、「もう少し鰹出汁をきかすと冴えるのではないか?」と常々思っていたところです。

代金引換は一見支払い時の混雑を避けるためと言い訳できそうですが、単に客の回転を促すためともいえます。おそらく土日の昼間の繁忙期でのことだとは思いますが、納得が行きません。今年は大河ドラマ「新選組!」とのタイアップで調布市が力を注いで町興しを図りました。深大寺も例に漏れず「近藤勇の故郷」として大々的に売り出し、都とも連携して神代植物公園内に新選組の特別展示館などを設けております。ゆえに「どっと観光客が押し寄せる」ことになりました。従い元々の深大寺周辺の住民、そして深大寺そばを愛する我々の危惧する「おざなりにならなければよいが」がまさに当たってしまったのかもしれません。

私自身はこの感想をいただいた後、忙しさにかまけて様子見にいけてませんのでなんとも言えませんが、少なくとも「代金引換」ははじめに「食券」買うよりギャップが大きいようで好きになれません。ほんとうだとしたら、すぐに改善して欲しい。これでは前々から言う通りの「名物に旨いものなし」あるいは「所詮観光地」となってしまいます。

もし他に同じような体験・思いをされた方がいらっしゃいましたら遠慮なくメールください。

当然のことながら自分でも試した後ランキングを変動いたします。(2004年10月加筆)

 

 

左:玉乃屋  右:松葉茶屋

 

 

一○庵

 

 深大寺山門の程近く、店の脇の用水路に水車を設けた造り込みで知らない者はないというくらいの有名店。山門前の「門前そば」(そのまんまだな)と「元祖嶋田屋」と並んで老舗中の老舗といっても良い。私が中学・高校生の頃小遣いにぎって良く食べに行った店でもある。久しぶりに訪れることにしたが、数年前に調布駅前のパルコに支店を出した。いきつけた本店より味がいいという、こちらにしてみた。

 店では手打ちをここぞとばかりに強調し、入り口にそば打ちのためのスペースを設け店内何処からでも見えるようにしてある。もりと中瓶を頼む。もりは650円、ビールは550円。ビールには小皿の突き出しがつく、今日は山菜だった。なかなか気が利いている。

しばらくしてもりがくる。細・中・太で区分すると中くらいか。餅っとした噛み応えがあるが、こしとしては強いとはいえない、普通である。そばの香りも極普通。つゆは鰹出汁はほんのり利いており、甘過ぎず濃過ぎずで加減は良い。が、化学調味料の味が舌に残るように感じられた。

 残暑厳しい季節、最初に水を持ってきてくれていた。他の年配のご婦人客がお茶を所望したが、暑いので今日はないとのこと。ん?茶もないのか?なんか違和感を覚える。会計をすると650+550=1200円となるはずが「税別」で1260円となった。深大寺では内税が基本で確か本店でもそのようだったはず。支店だけなのか、それとも今じゃ本店もそうなのか?

 総合判断すると、格別深大寺にまできて食べなくとも、町のお蕎麦屋さんで食べられる味であろう。本店のロケーションで深大寺を感じて満足する方も多いのだろうが、味的にはそう判断せざるを得ない。

 また、学生の頃食べたときと変わらぬ味であるが、もはやあのときとは違い、旨いそばを他で食べているので満足できなくなっていることもある。確かにあのころはこれで満足していた、旨いそばだと思っていた。客の舌は絶えず旨いものに対して貪欲であり、造る側も常に工夫がないと飽きられ、昔ながらの伝統・味を守っていても「味が落ちた」といわれるのは工夫がないせいではないだろうか?老舗の看板に奢っているとは思わないが、深大寺を訪れた方々に満足してもらうように一工夫欲しい。それが老舗、そして有名店としての義務ではないだろうか?

 工夫についてはこんなお店の話を紹介したい。

調布の国領に「星月」という蕎麦屋がある。ここの二代目は私の友人である。若い頃は札付きの悪たれで、ろくに学校も行かず喧嘩ばかりしていたが店を継ぐようになり修行をはじめてから実にそば打ちに関してはまじめになった(今でも夜遊びはしている、笑)。こしのある更科そばで、わたしの好みにあうので、よく仲間同士でつるんで食べにいったものだ。

数年前、しばらくぶりに訪れた時に、以前はおやっさんから受け継いでいた、「やや辛い」

つゆが出汁が利いたまろやかな味に変わっていた。まだおやっさんも健全(というか頑健そのもので、夜遊びしている、笑)で店でばりばり働いている中で、味を変えるということは冒険であり一大決心のいる事であろう。

その結果・・・・。前にもまして旨くなった。普段馬鹿言い合う間なんで面と向かって「つゆ変えたな、旨いじゃねえか」などと照れくさくって言えないんでいつも通り「ごちそうさん」で済ましたが、あとで地元の仲間に「最近あそこつゆ変えたんじゃねえか?」と聞きまくると「絶対変えたよ、旨くなったよな」と口をそろえて言う。それからは以前にもまして通うようになった。

一工夫で以前にもまして旨くなる店もあるのである。

 

 

周辺の風景

 

 

湧水

 

 はじめてこちらを訪れたのはもう8年位前になるだろうか?その前年の平成5年に転勤の連続で離れていた東京に、これまた転勤で戻ることができた。しばらくバタバタが続いたがようやく落ち着いてきたので深大寺をふと思い出し行ってみることにした。

 数年ぶりに訪れた深大寺はまったく変わらぬ佇まい。幼少のころから親しんだ遊び場はいまも健在であった。

 その中で、以前には確かなかった店が新たに出来ているのが目に入った。まだ開店して間もないようで建物も綺麗である。食道楽の食指が動く!と、いうわけでさっそく入ることにした。

 やはり、基本はもりである。ビールとあわせて注文する。近頃はビールを頼むと「そばはすぐお出ししますか?」と気を遣ってくれる(嬉しい)。でてきたもりは清涼感のある、やや白いそばだ。そして細い。さっそく食べてみる。細いが実にこしが強い。蕎麦の風味も満点である。久しぶりに本物の手打ちそばにめぐり合った気がした。つゆは出汁がよくきいていて鰹の香りが心地よい。やや辛めだがそばとのバランスが非常によく取れたレベルの高い出来栄え。

 以来、たまに数ヶ月間ご無沙汰することもあったが、もうずっと通いつめている。そば以外でも天ぷらの美味さには驚かされる。実にぱりっと揚がっていて、少食の方でも食べ始めれば一人前あっという間に平らげてしまうこと必定。初めての方は天ざるを注文されることをお勧めする。その他にもそば粉を使用した蕎麦羊羹などデザートもあり、これもお勧め。甘さを抑えてあるので男性でも一皿パクリといけます。

 もりは600円、中瓶500円と良心的な価格。ぜひ一度お試しいただきたいものである。店主のたゆまぬ研究心の故、当初やや辛めだったつゆにここ2年くらいでまろやかさが加わり一段と美味しくなったと感じる。ここなら安心して人に「美味しい深大寺蕎麦の店」とお勧めできる。

 

追伸:序文に書いた通りこの企画をはじめるにあたってきっかけとなったのがこのお店です。通いつめているせいか他店よりメニュー紹介が多いがそれはお勧めということでご理解いただきたい。他店でも美味しい店は(たとえば現時点では玉乃屋さん)また訪れて他のメニューも試して紹介していく予定ですので。

 

しかし、序文で言い切った割りに「そば」「蕎麦」変換でいい加減に使用してたりして・・・

 

湧水

 

 

松葉茶屋

 

 神代植物公園の深大寺門を出たところに二軒並ぶ店のひとつ。隣は玉乃屋である。

店の造作は玉乃屋さんとそっくり。店内に老木が屋根を貫いているところ、庭先に緋毛氈を敷いた椅子席があり、甘味もあるところなどなど。経営者は別なのだが互いに意識してのことなのか?しかし、この二軒は絵になる。とても東京とは思えない。タイムスリップした気分を味わえ、それだけでも価値があるかもしれない。

 店内は実に清潔で、店員の応対も良い。手馴れた感じがする、それだけ流行っているということか。ここも玉乃屋と同じで十割蕎麦もやっていて、思わず頼みたくなるがここは「公平」をきする・・・。もりとビールを注文する。650円+500円、深大寺標準値段である。

 ビールとともにサービスで出てきた一品、「そば味噌」であった。味噌とそば粉を混ぜてよく練り、そばの実も加えて食感を出してある。その加減、抜群である。味噌もまろやかで辛くなく、酒のあてに最高である。思わず「うめえ」と唸ってしまった。これだけで酒がいくらでも入る。いっそこのままこれで呑んじまおうかと、そんな思いがちらっと脳裏をかすめた。いかんいかん、本末転倒だ、ここは心を鬼にして・・・。

 もりが運ばれてきた。中細の麺。色は白過ぎず黒過ぎず、ちょうどいい塩梅。深大寺蕎麦に共通する色合いで、太さもどうやらこれが深大寺蕎麦の標準かも知れない。つゆに浸して食べてみる。こしもしっかりとして、そばの風味が漂う。つゆの味加減も甘過ぎず辛すぎず、鰹出汁の香りもほんのりと申し分ない。あっというまに平らげてしまった。ビールが半分以上残ってたので味噌を舐めながら「そば豆腐」も頼んでしまった(300円)。ネギとの相性良く、生醤油でなくつゆで食べるこの一品もなかなかの出来栄え。ここはお薦めできる。十割蕎麦やそば前の料理もぜひ味わってみたい。

やはり実際に食べてみないとわからないものだ。長年三鷹・調布に居を構えながら入ったことがなかったのが悔やまれる。現段階では「湧水」にひけをとらない評価を差し上げたい。

 う〜む、植物公園深大寺口のこの二軒、茶店風でありながら本格派のそばを出す名店と言っていいかも。ここならわざわざそばを食べに来る価値もあろうというもの。

 

 

元○○○屋

 

いったい私はなにが本業なのか?(なんの仕事してる人間なのか?)

というわけで、行脚です。

 文久年間創業というから既に130年経っていることになる深大寺でも老舗中の老舗。場所も深大寺山門の前という最高の立地条件を誇る。一○庵とともに学生時代によく訪れたものだ。池に面した席からは、鯉や亀、鴨やあひるなどが気持ち良さそうに泳いでいるのが間近にみることが出来、時間の経過を忘れさせてくれる。そのロケーションも手伝って、おそらく数ある深大寺蕎麦の中でも1・2位を争う知名度であろう。もうかなりまえに建替えして(模様替えして?)私が通っていた頃とはだいぶ雰囲気が変わっているが座席の配置などはあまり手を加えていないようだ。清掃も行き届いており清潔である。

 もりとビールを注文、600円+500円、良心的設定といえる。ビールには山菜が付いてきた。そばは「すぐお出ししてもよろしいのですか?」と確認する。感じの良い手馴れた店員さんのようだ。教育も行き届いているというべきか?

 ビールを呑みながらしばし待つ。お運びさんがもりを持ってきたが、ざるの下にわっぱがない、直接テーブルにざるを置くのかと思ってびっくり。「おいおい、そりゃねえだろ」と思いきや、あっさり置かれてしまった。念のためざるを持ち上げたところ、脚が数箇所ついているものだった。直接テーブルにざるが触れないような造り込みで理にはかなっているが、ちょっといただけない感は否めない。

 そばは中太の平打ち。風味はしっかりと残っている。しかし、ややこしが弱いように感じる。風味があるのだからもっとこしが強ければさらに良くなると思うのだが。つゆはやや甘めで今までの中で一番たっぷりと入っている。鰹出汁があまりきいてなく、全体希薄な印象である。こう、なにか訴えかけてくるような特徴に欠けている。悪くはないのだが格別良いというものもない。確かに昔よく食べた懐かしい味なであり、よく言えば「昔ながらの伝統・味を守っている」、悪く言えば「工夫に欠ける・進歩がない」ということか。

深大寺をはじめて訪れた人たちが果たしてどの程度満足するのか評価が分かれるところだと思う。まあ、ロケーションも店の味と見れば納得してもらえるのかも知れない。

 おお、そうだ忘れるところだった。料金外税になっているのは反則だ。他店は内税が多いぞよ。

 

 

山門周辺

 

 

門○そ○

 

不機嫌な行脚。

  深大寺山門のすぐ前、元○○○屋さんの向かいに位置する、ここも老舗中の老舗である。やはり垣根で仕切り、庭に緋毛氈の席を設けて屋外でも店内でも食べれるようにしてある。そのロケーションゆえ知名度は抜群であるが、私は何故か一度も入ったことがなかった。山門近くでこの界隈でも最も有名店なので訪れてみることにした。

 店内でもよかったが、清々しい日だったので外の緋毛氈の席をとった。さっそくビールを頼む。「麒麟のラガー一本」、「麒麟の生でしょうか?」とおばさんが聞いてくる。聞き間違えたと思い、「いや、生じゃなくて普通のラガーです」、「は?ラガーというビールは置いてないんです」、そうかここは麒麟は置いてないのかと思い、「それじゃ、ビールは何があるんですか?」と聞いた。「はい、ビールは深大寺ビール(地ビール)と麒麟です」、こんどはこちらが「は?じゃ、麒麟あるんだ、それは何(麒麟でも銘柄があるから、たとえば一番搾りかと思って)」と再び訪ねた。「はあ、麒麟です」、とおばさん答える。「それはラガー?」、「は?麒麟とラガーは同じなんですか?ちょっと聞いてきます」とのこと。「ラガーっていえば普通は麒麟のことですよ」と教えるはめに・・・。そそっかしいおばさんだ、減点。

 ラガーがなんとか出て来た。もりは650円、中瓶550円。通常価格である。突き出しが出て来た。そば味噌かと思ったら金山寺味噌の唐辛子あえであった。辛いものは好きだが、そば喰う前にこんな味の濃くて舌の感覚を変えるようなものを出すんじゃない。じっさい味噌辛くて閉口する。減点。

 ほどなくもりが運ばれて来る。色はやや濃い目でいかにも「そば」らしい。しかし、ようく見ると表面がつるつるしていて、手打ちの豪快さが感じられない。他のメニューをみると「粗挽きそば750円」とあり、それにはわざわざ「手打ち」と表示されている。となると、やはりここの「もり」は・・・・・?と勘ぐってしまう。つゆも市販のつゆとさして変わらないようでもあるし香りも味もあまり感じられない、ありきたりのものだった。他の店ではもりといえど手打ちをきちんとだしているところもある。従ってこの店も公平に評価するとなると「粗挽きそば」を食するべきであろうが、そんな気にはとうていなれなかった。ただ、このもりはこれはこれでこしがあり手打ちでも機械打ちでも出来は良いかも知れない。が、どうも片方は「手打ち」表示して料金変えて二つだすのは腑に落ちない。ここを訪れる人たちはここでしか味わえない「深大寺蕎麦」を求めてやってくるのである。ここはそば前の品数も豊富に揃えてあるが、こうなると本末転倒である。最初のビール事件もあってワンランク評価を下げざるを得ない。

 たまたまこの日は山門にてドラマの撮影があり女優の黒田福美さんがいらっしゃった。実にしっとりと落ち着いた綺麗な方で、この方を見かけただけで少しは救われた気がした。 

 

 

箸休め:手打ちの復興

 

そば(そば切り)の原型は紛れもなく石臼を用いて玄そばを手挽きし粉にしたものを手打ちにしたものに他なりません。田舎蕎麦といわれるものでしょう。

 これが江戸で喉ごしを良くするためにつなぎを加えたのが二八です。つなぎこそ使えど紛れもなく当然手打ちでした。

ところが、明治に入り製麺機が開発普及されるにいたって手打ちが廃れました。洋食の普及もそれに拍車をかけ、だんだんとそばは人気を失います。従い手間隙かけてそば打ちなどしなくなっていきました。

 それゆえ伝統的な手打ちを伝える者もいなくなり技術は途絶えたといっても過言ではないでしょう。戦後の高度成長期を迎えて、減反政策その他国内農業の縮小化・穀類の輸入が増大するに至って、そばも輸入され質の悪いそば粉となりました。機械打ちによる大量製麺、原料のそば粉も輸入による古く質の一定していない悪いものですから当然美味くないはずですが、長い間それを普通だと思って食べているので美味いのかまずいのかわからないというのが本当のところだったのでしょう。

 そのような風潮を嘆き、手打ちの復興をさせようという動きが本格化したのは昭和40年ごろですから、まだそんなに古いことではありません。東京杉並に「本むら庵」というそば屋を営む小張さんとおっしゃる方が最初だといわれてます。小張さんは輸入もののそば粉の質の低下にもいち早く対応し、昭和46年には国内産の玄そばの石臼挽きを行い、自家製粉・手打ちによる自家製麺という昔ながらの作業を復興させました。

 これに影響を受けて、昭和48年に食味評論家の多田鉄之助氏とそば屋「一茶庵」店主片倉さんが日本そば大学講座を開設し、本格的手打ちの指導をはじめてから、多くの手打ちそばの名店がぞくぞく誕生するに至ったそうです。

 島根県の松江の「神代そば」(創業昭和27年)のように創業当時より石臼引き・手打ちを守ってきた店もありますが、ごく少数派であり、やはり昭和40年代終わりから50年代にかけてが手打ちの復興時期と見ていいでしょう。

 深大寺そばも他聞に漏れず、機械打ちによるそばが戦後もずっと続いていたようです。今回いろいろ食べ歩いてみて感じましたが、深大寺も時代の流れに対応し石臼挽き・手打ち(自家製粉〜手打ちまで)、そば粉は購入するが手打ちという店がで出始めたのはさほど古いことではないようです。また、手打ちでもそば粉の質を確かめ国内で確保しているところとそうでないところもあるようです。なかには製麺所からそばそのものを仕入れている店もあり、まさに千差万別。いずれきちんとした手打ちでなくば自然淘汰もあるでしょう。

(前半の手打ちの変遷については東京ガスの社員・OBでつくっている「TGそばの会」さんが日刊帝国ニュースに週一で連載している続・そば行脚、95日号を要約してます。これはまとめて本にもなっていますのでご参考までに)

 

 

八○

 

 ここも老舗である。深大寺山門の程近く、門○そ○の隣である。入れ込みの座敷と緋毛氈の座席、屋根で覆われているので雨でもここで座って食べれる。しかも、庭に湧水(単に水を引いているのか?)があり、小さいながら風情のある池を持ち、鯉が泳いでいる。しし脅しもあり申し分ない。

 座敷も空いていたが「お好きな席に」とのことなので、池に面した席に陣取る。なるほど、店内に限って言えば今までの中でロケーションは抜群である、山門周辺では今のところ。

 御茶が運ばれてきた、なかなか若くてかわいいお姉さんである。年のころ二十歳前後であろうか。思わずランクを上げたくなる!いかんいかん、惑わされてはいけない、公平に公平に・・・。

 もりとビール。600円+500円、安めの設定でしかもビールに突き出しがあった。今のところ価格面では突き出しの分一番良心的か?

 そばはやや色の薄い、細くてやや平たい麺。あまりに細さが揃っているところを見ると、そばを切るのは固定式の専用機だろう。食感はこの細さではこしのある方かも知れないが、比較するとまあ、普通。風味にはやや欠けるか?つゆも甘からず辛すぎず濃すぎずで、悪くはない。ざるではなく四角いせいろで出し、山門周辺では独自性を出している。

全体悪くはないのだが個性もない。きっと自分が住んでいる近所の出前を頼むようなそば屋だったら美味しい方だと思うが、深大寺だからという格別のものはない。と、いうか、そこそこのものがあるのだが「器用貧乏」とでもいうのか?なにかこう一つでも良い、抜きん出たものがあれば。他店に比べて一つでも「これが当店の色」、そう「色」があれば伸びるとは思うのであるが。

 これほどのロケーションがあるので、いささかもったいない。お姉さんも若くてかわいいのだから(いかん、いかん!若い娘はいろいろ変わるが、そばは続くのだ。味が変わらぬ限りそのままで・・・。なんじゃこりゃあ!)あともう少しで「深大寺蕎麦」に相応しくなると思いますが・・・。

 現段階ではAとBの中間をさまよう「B」って評価ですね。癖がない分成長が期待できるってこと。

 

 

多○

 

行脚は続くよ、どこまでも。

 おじいさんの時計みたいに100年は続きませんが・・・。

 都立水生植物園の隣に位置しており、深大寺山門からぽつんと一軒だけ離れているにもかかわらずなかなか目立つ立地条件。いつ通りかかっても客がそこそこ入っているので、以前から一度は入ろうと思っていた店である。

 昼時を外して行ってみた。客は意外と多い。もり550円、ビール500円と安めの料金設定。ビールを頼むとこれに付き出しもあり現在のところ価格面では一番安いと言える(付き出しはきゅうりのキューちゃんではあるが)。「おそばはすぐお持ちしてもよろしいですか?」ビールを持ってきた店員さんがきちんと確認する。「ええ、出してください」、この心配りは期待できる。しかし、ビールをコップについで呑み始めたらほんとうにすぐそばが出てきた。作り置きである・・・。しかも異様に量が多い。普通の店の倍くらいはある、そしてこれで「並」なのである。ほとんどの客は若いサラリーマン風、ただでさえ目を剥くような量なのにさらに中盛りを頼んでいる、凄い。

 つゆは化学調味料の味がかなりする、つまり市販のつゆに近い。そばは、やや平たい細麺といったところ。作り置きのせいもあるが、ぼそぼそっとしててこしもない。そばの風味もなく、そばの味のしない田舎そば食ってるみたいだ。半分も食べ切れなかった。

 ここは、とにかく腹一杯になりたい人にはお勧め。事実、中盛りや大盛りを平らげることを自慢にするような感じの若い人たちが多いようだ。そう人たち(大食いチャレンジャー)には受けがよく、それなりの常連がついているようだ。いつ通りかかっても客がいるのはこの「量」に対しての「価格の安さ」とみた。そばの味を堪能しようとする人には全く向かない。残念ながら私には合わないが、深大寺における価格破壊的料金設定とその爆発的量には一目置かざるを得ない。ワンランク評価を上げて堂々のCにしたい(なんじゃこりゃあ)。

 

 

雀のお宿

 

 まず、店の造りが凄い。竹やぶの中に建てたと言っても良い。庭のど真ん中にも竹やぶがありそれを「コ」の字型で囲むように建屋がある。入れこみの座敷あり、はなれ風の庵あり、縁側のような席あり、とにかくバリエーションに富んでいる。いかにも純和風で、遠くから足を運んでくれたお客には間違いなく受けるであろう。

 入れこみがガラガラなので、そこに陣取る。このまま時代劇のロケに使えそうな雰囲気。ところが、しばらく座っているとなんか異風だ。あまりにも和風を強調しているので、かえっておかしい。そこでこの違和感は何かと考えてみた。ふと気がついたが、よくアメリカ映画でみる感じだ。一度も日本に来たことのないスタッフがあれこれ考えて作り上げた劇中の「日本料理の店もしくは茶店」そのものだ!おもわず笑いが出そうになってしまった。でも、そこがまた面白い。意図してやったわけではないだろうが、長年手を加えているうちに新旧織り交ざってこんな風になったのかも知れない。

 さて、もりであるが値段は750円と今までの中で一番の高値。ビール中瓶も600円とこれまた高値更新。そばは手打ちなのかどうか迷うところだが細くてこしもある。湧水や松葉茶屋ほどではないが、この細さでこの強さは深大寺蕎麦をここまで食べ歩いた中でもかなりのものであろう。かつ、とにかく長い、その面では一番だろう。二人羽織やらせたら爆笑ものの本格的長さである。つゆの加減も上々、旨い。落ち着いた雰囲気と言い深大寺蕎麦としてお薦めできる・・・・のではあるが、ここで評価にちと困ってしまった。

 と、いうのもわずか100円から150円とはいえ、やはり他店との値段の違いをどうするかである。ここが完全なる観光地であればこの値段でもよいだろう。宿泊施設を備えた観光地、例えば箱根のようなところであれば、こういう日だけは贅沢をしようと財布の紐もゆるくこうした高めの値段設定がかえって普通と言える。ところが深大寺は基本的に東京近郊の人たちが日帰りするところである。JRや私鉄を乗り継ぎ、さらにバスに乗り換えてやってくる。その点を考慮すると他店で美味しいそばを安く提供するところもあるわけなので、この値段がふさわしいかどうかということになってしまう。味的には申し分ない、しかし高め。ここまでで一番安い店と比べると、もりと中瓶で安い店:もり550円+中瓶500円=1,050円。こちらでは750円+600円=1,350円となり300円差がある。平均的値段のもり650円+中瓶500円=1,150円と比べても200円差が出てしまう。苦肉の策であるが、「やや値段高し」との注釈付で「A」とさせていただきたい。

 しかしながら、この店の名誉の為に付け加えておくが、こちらは鰻の蒲焼・白焼や地鳥の鍬焼きなど他店にはないそば前があり、呑み助の心を揺さぶるものがある。日曜の昼下がりに、気の置けない仲間たちと酒を酌み交わしながらこうした料理をゆっくり味わいたくなる風情のある店である。もう一度そのあたりを確かめに行ってみる必要がある。

雀のお宿

 

 

箸休め:手打ちはなぜ美味しいか

 

帝国データバンクが出している日刊帝国ニュースという企業情報誌があります。その中に週一で連載されている「続・そば行脚」というコラムがあるのは既にお知らせした通りです。これは東京ガスの社員・OBの方で構成されている「そば」の同好会です。有名店だけでなく美味しいそばの店があると聞くと、たとえ北海道だろうが九州だろうが、まさに全国津々浦々を行脚されてらっしゃいます。

最近はそば屋の方で宣伝をかねて金を出して有名人を呼んで取材してもらったりする場合もありますが、この方たちはそういった店には見向きもせず、また当然すべて自費でまかなってます。まさにそばの達人・鑑とでもいいましょうか。現在連載中のものは「続」ですから、当然前作がありますが、これは「そば行脚」TGそばの会と銘打って出版されていますのでそば好きの方はぜひ一度はお読みいただきたいもの。

で、先日のコラムに「なぜ手打ちは美味しいのか」を簡潔にまとめられた名文が載ってましたのでご紹介いたします。(多少順番を変えたり、要約もしてます)

 

@ 手打ちは粉が自然にまとまるまで加水していく。また捏ね・延しの段階で空気が混じりふっくらとした仕上がりとなる。こうして適度な含有水分量とあわさって口当たりの柔らかなしなやかな茹で上がりとなる。

これに対し、機械打ちでは捏ね・延しにおいて強力な圧力をかけまとめるため、水分がもともと少ない出来になり、そばの持つ美味しさもはじめから損なわれている。

(私の経験から申し上げると、お好み焼きの焼き方に似ています。鉄板で焼くときに、ぎゅうぎゅうへらで押しすぎると硬くなるばかり。ふっくら焼くには押してはいけない、お好みの中に空気が程よく入っている方が美味い)

A 石材は摩擦による熱の発生が少ないため、石臼を用いて挽いた粉はそばの風味が損なわれていない。

製粉所での機械挽きは一気にそばをすり潰してしまい、かつローラーが摩擦熱を発生するので粉が焼けてしまう(粉焼け)。当然風味が相当損なわれる。

(現在では石臼にモーターをつけた製粉機があり、これだとかなり熱の発生が防げ、そばの風味を生かせるようです。これで自家製粉行っているきちんとした店も増えているようです)

B 挽きぐるみとは殻つきの玄そばをそのまま石臼にかけて挽くことである。昔はそうやって殻を除くとともに粉にした。江戸で上品なそばが好まれるようになると、あらかじめ殻を剥いて(丸ヌキ)から臼にかけた。

石臼でそば粉を得る場合、最初に出てくる一番粉は内層粉、二番粉は中層粉、三番粉以降は外層粉。二番粉までを使用すると白い綺麗なそばができるが、どの粉をどの程度混ぜ合わせて使用するかはそば職人の好みと感性で決まる。香りや甘味は外層粉に多い。また殻を剥くとき出る黒い粉を混ぜると香りの強い美味しいそばが出来る。

C 生粉打ちはそばそのものを味わうことに他ならないので美味いはずである。つなぎを入れるとそばが硬くなったり素っ気ないものになりがち。ただし、「割粉もそばの内」、そばとの相性のよいつなぎであればそばの風味を損なうことがない。

 

割粉もそばの内、とは名言でありましょう。江戸のそばはつなぎを使った二八が原点。十割そばには十割ならでは「そば本来」の美味さがあり、二八には二八の職人の腕をかけた美味しさ、こしの強さがある。そういうことではないでしょうか。

 手挽きについても言及されてますが、石臼を本当に手で挽いて製粉するわけで非常な労力を伴うものであることは容易に想像がつきます。が、実際どれほどのものなのかはこれを読むまで知りませんでした。

 

「東京恋ヶ窪(国分寺市)の『きぬたや』は1時間挽いても5人前しか挽けないという。大阪『月花水』も140人前が精一杯という」

 

こうしたところでは、手挽きはおそらく一日何食といった限定にしているのではないでしょうか?それにしても大変な苦労です。

「手挽き」によるそば粉を使用した「手打ち」のそばを食べる機会があったら、こうしたことを思い出していただけるとそば好きとして嬉しい限りです。

 

 

陣○

 

 ここは本当に評価に困る店だ・・・・。

店先に大きな水車が回っており、外観は風情たっぷり。手打ち小屋もあり、期待が募る。店内に入る。暗くて座席が狭い。汚いとまでは言わないが、老朽化しすぎているようだ。週刊誌・週刊漫画雑誌などが積み上げられ、テーブルにも新聞が置かれたままになっている。雑多な感じがした。なんとなく昔のチェーンのそば屋兼定食屋かつ、あんまり流行ってない店を思い起こす(この店は流行っている、念のため)。あったかいそば頼んだら、どんぶりに指突っ込んで持ってきそうな雰囲気。

 入れこみ席に座る。もりとビールを注文する。もりはなんと800円、高値更新。ビールは500円で小鉢(山菜)がついた。また、あったかいおしぼりのサービスがあった。このあたりは今までにない気配りと言える。ビールを呑みながら待つこと十分少々。混雑する昼時を外し、私の他には三人しか客がおらず、しかもその客の注文は既に出きっているのにこの待ち時間・・・。手打ちにこだわっているので、おそらく茹でるのにも気を遣ってのことだろうと解釈するが、客のほとんどいない時間でこれなら、昼時は相当待たされるのではないか?(その時間潰しのための新聞・雑誌類なのだと気が付いた)逆に混雑時には茹で具合がおざなりになるんじゃないかなどと、つい邪推してしまう。

 出てきたそばは、石臼挽きの自家製粉・手打ちというだけあって、風味万点でこしも強い。そばそのものはかなりの水準ではないだろうか。つゆはやや甘めでとっくりに一杯入って出されるのも、今までにない。はじめから猪口に入れて出すのが深大寺風。薬味も刻みネギ・わさびというお決まりに加えて大根卸しが少々あるのも目新しい。

 で、結局のところそばは評価できるが、値段が深大寺では高過ぎるのではないか?自家製粉・手打ちなので仕方ないとは言え、玉乃屋さんも同じことをやりながらも価格的には安く提供している。深大寺は完全なる観光地ではない。宿泊を伴うような一大歓楽街や温泉街なら「たまの贅沢」で財布の紐も緩くまた散財も期待できる。しかし、前にも書いたと思うが深大寺はあくまで東京近郊の方々が植物公園で四季の花々を楽しみ深大寺に詣でて、しめくくりにそばを食べて日帰りするところである。JRや私鉄を乗り継ぎ、さらにバスでやってくる方がほとんど。そんな中で神田や日本橋の有名店・高級店並みの価格設定はどんなもんだろうか?もし、その価格を通すなら、もう少し店内の造作を綺麗にして整理整頓した方が良いと思うのだが。ここはどうやら深大寺周辺に住んでる方をターゲットにした、オラが村のそば屋といった雰囲Cだ。と、いうわけで「そばはAだが値段高し」という注釈付で総合評価はBとワンランクダウンさせていただくとする。おいしい店が二件あるとしたら、安くて綺麗な店の方に行きたくなるのが人間の心理ではないでしょうか?

 

 

鈴○

 

 深大寺門前に位置する4軒のうちの1軒。店先でいろいろ土産物を並べて売っていて、そちらの方が以前より記憶に残ってる店であった。入るのは本日はじめてとなる。

 店は深大寺のそば屋の多くがそうであるように、店内と外にテーブルと緋毛氈の椅子を並べた構えである。全体、ちと老朽化している。もりとビールを頼む、もり600円、中瓶500円と良心的価格である。ビールには小鉢(この店だけでなく、おそらく日によって変えるのだろうが今日はほうれん草のおひたし)がついた。ビールを呑みながらしばし待つ。もりが運ばれてきた。今までの中で一番白い。それも一番粉を使った白さとは違い、つなぎの白さだ。長さ・太さもほぼ揃っている。いやな予感がした。つゆも少し舐めてみる。しょっぱい、出汁がきいてない。まるで市販のつゆとなんら変わらない。そばをからめて手繰ってみる。想像したとおり機械打ち、おそらくどこかの製麺所から買っているのだろう。香りもないし、そばの味もほとんどない。そばというより「そば風冷麦」みたいだ。結論としては「そば風味の冷麦がたべてみたい方」にお薦めの店である。私?私は冷麦大好きですけど、そば風冷麦はもうけっこうです。ちゃんとした冷麦を家で茹でてネギやおろし生姜、茗荷をたっぷりきかせて食べます。評価は当然ながらC。

 

 

   福○屋

 

 神代植物公園深大寺門から深大寺へと続く坂道のほぼ真ん中に位置する、山門からそれたところにある店である。たぶんこの界隈に店を構える中ではかなり小さい方だろう。外観は観光地に多きそば屋そのもの、民芸風とでも言えばよいか。

 今日はガラガラヘビがいたので、いや、がらがらだったので、一人(いつも一人だが)店の奥のテーブルに陣取る。おっさんが注文取りにやってくる。愛想はいい。もりとビール、いつものメニューである。600円+550円、まあまあ良心的である。小鉢ではないが小皿がビールについた。店はテーブル席のみ、窓際にいろんな小物が置いてあり雑然としている。

 もりが運ばれてきた。現在の中で一番黒い、いや、無茶苦茶濃いこげ茶色と言った方が正しい。深大寺蕎麦の中では異風と言っても良いかも知れない。

つゆを舐めてみる。薄い、とにかく薄くて出汁の味もなにもない。このまま飲んでも良いくらいだ(事実、後でそば湯入れて飲んだらこれがまた薄きこと!)。今までの店は「市販のつゆみたい」とか「市販のつゆ並だ」の表現だったが、ここは「市販のつゆを伸ばしたみたい」としか言いようがない。そして「こげ茶色」のそばだが・・。例えるとしたら「出雲蕎麦」のような黒さに近い。ただし出雲蕎麦は挽きぐるみで、色は黒いがそれは見た目のことだけである。確かに味もかなり濃厚ではあるが、だからといってけっしてしつこさはないし、香りが強すぎるということもない。ところがこのそばは、つゆの希薄さもあってか、そばの風味を通り越して「焦げ臭い」のである。「焦げパン」食ってる感じ。こういうそばも無いことはないが、それならもっとつゆを濃い目にしてそばの「あく」や「くせ」をある程度殺さねばいけない。つい、「このあいだは冷麦で、今度は焦げパンそばか」と思ってしまった(食道楽も生半可ではつとまらないのである。常に旨いものに行き当たっているわけではない。むしろ外れが多いのである)。当然手打ちでなく、どこからか仕入れているのであろう。この焦げ臭さを「田舎蕎麦風」と思われては困る、私の両親は島根の出身、島根と言えば出雲蕎麦。かなり色濃くしかも香りもくせもあるそばだが、けっして焦げパンではない。全国にそばの発祥たる田舎蕎麦があるが、その独特の香り・くせもそば本来の持つ味であり、かと言ってくどくないのが本来の田舎蕎麦である。焦げ臭いのとは土台が違っているのだ。

食後にどうぞと、葡萄を持ってきてくれた心配りに免じてワンランクアップして、Cの評価を出したい。おこげの「パン」好きの方にはお薦めしたい。

 

 

風情のある光景

 

 

時○茶○(閉店)

 

 深大寺山門にある老舗の一軒。なぜか、深大寺蕎麦というより野草天ぷら・野草料理を前面に押し出して売り物にしている、ここではちょっと変わった店である。学生時代に一度、また数年前に家内と来たことがあるが、印象は薄い。ところが、「ヤクルトタフマンのCMでお馴染みのI・Sさんや、ガチョ〜ンのT・Kさんなどのお薦めの店」として有名?なのである。ま、もっとも御二人ともご近所さんなのだが。

 店は、とにかく古い。かなり老朽化しており、あまり良い感じはしない。最初に食券を買うシステムになっているが、金は払ったが食券はくれなかった。空いてたからだろうか?

ビール中瓶550円に小皿がつく。もりは600円。いたって普通である。ビールを呑みながらしばし待つ。ここはご主人もジーンズ姿、店員はみな家族らしく、中学生くらいの娘さんも手伝っている。ところが誰も白衣を着ていない。手打ち小屋もなさそうである。

出てきたもりは色の白い冷麦系(笑)、中くらいの太さで長さも揃った機械打ち。製麺所から買っているのだろう。つゆは、これでもかというほど甘い。そばははっきり言ってあきらめた。

 で、行脚のポリシーから外れるが、名物になっている野草の天ぷらを頼んだ。一人前650円で、かなり量が多い。相当なものである。衣は薄くさくっとしているが、ところどころ天ぷら粉のまぶし方に斑がある。まあ、そばに比べれば合格点はだせる。しかし、天つゆも甘い。せっかくの天ぷらが台無しだ。口に甘さが残ってしまい、天ぷらの旨味が感じられない。天ぷらの量は特筆ものだが、他店に確実にもっと旨い天ぷらを出すところがある(それはまた別の機会に番外としてお知らせする)。深大寺という狭い区域の中でも食べ歩きしてみることも必要ではないだろうか。野草料理に重点を置いてこの先切り替えるか、深大寺蕎麦として本道のそばをとるか、プラス店をもう少し修繕するかした方が良いのではないかと思う。大きなお世話かな?評価はC以外なにものでもない。

 

 

箸休め:昔の味

 

またもやTGそばの会さんの「続・そば行脚」からの引用と自分なりの解釈です。

  「山形県のJR上山温泉駅からさらにレンタカーで乗り継ぎ、地元で評判の「Hそば」を訪ねた。蕎麦の色は黒味がかり、口当たりは柔らかく穏やか、つなぎを感じさせない嫌味のない蕎麦である。つゆはやや甘いというかコクが足りない。空腹だったゆえ山盛りの蕎麦をみんなで平らげたが期待したほどではないことに頭をひねった。以前はこの程度なら評判になったのであろう。最近は粗挽きの十割というような逸品があちこちで味わえるようになってきたので、昔の名店は相対的に地盤沈下した。(以上要約)」

 

 この文章の中に、そばに限らないすべての食に対する味覚、美味いと感じるか、まずいと感じるのかの要因が集約されているように思えます。

 今回TGそばの会さんが行かれたそば屋は場所的に言って、通常地元の人間でない限り「ちょっと喰ってくる」というわけにはいかないところ。また、地元の方も車を飛ばしてやってくる方がほとんど。たぶん他にこの店と比較するようなそば屋は近隣にはそうそうないように思えます。おそらく、このそば屋はある意味限定された客層のなか長年培ってきたそば打ちをかたくなに守り通してきたのだと思います。TGそばの会さんが仰っているように、昔はこれで評判になった、これは正しいことだと思います。現在も他のそばを食べつけてない人にとってはこの店は一番のはず。また、十年位前に来ていたら、そばの会の方も「美味しい」と感じたかもしれません。ところが、そばの会さん達は常にそば行脚を続けているうちに新しい味にどんどん遭遇している。つまり、食べる側の味覚が進化したがため、昔食べて美味しいと思ったものでも、新しい記憶との対比により頭が「美味しくない」と判断してしまうのでしょう。よく「味が落ちた」という表現を聞きますが、実際は味は落ちていないのではないでしょうか?味覚が変わったためにそう感じることの方が多いのでしょう(実際に落ちる場合もありますが)。

 このことは、「昔ながらの味を守る・伝統の味を受け継ぐ」ことが必ずしも味覚のニーズに合うかどうかという大問題を投げかけてくれます。「今も昔も変わらぬ美味しさ」、そういう食べ物は和菓子などをみてもかなりあります。しかし、それはそれを凌駕するものがないのか、あったとしても食べたことのある人がまだまだ少ないと言うことに尽きると思います。

 これは、深大寺蕎麦にも当てはまることがあるなあと、自分で行脚してみて実感できるこの頃です。学生のころ食べに行った老舗のそば屋、今あらためて食べてみるとさほどでもないと不思議に思うこと数回。昔と味が変わったのではなく、私自身がいろんなそばを食べたせいで味覚が変わり、昔の味では満足できなくなったのでしょう。

不況と言われながら、いまや1億総グルメとも言って良いほどの外食ブーム(あんまり感心できる言い方ではないですが)。そばとて例外ではなく、自家製粉・手打ちに飽き足らず、店の造作にも趣向を凝らした「ニューウェイブ派」と呼ばれる新手がどんどん名乗りをあげ成功している現状です。なにか一つ自分の店ならではの特色を出し、それに客も呼応しているような気がします。

地元民として深大寺もこうしたニューウェーブには負けて欲しくない。昔の味に一工夫で変えられると思うのですが、やはりそれは素人考えなのでしょうか。

 

 

番外編:たけちゃんにぼしラーメン

 

 そばはそばでも、今日は趣向を変えて「中華そば」つまりはラーメンを紹介する。

深大寺山門からはちょいと方向違いだが、紛れもなく深大寺の地名がつく場所にあるラーメン店がここである。いまでこそバス便が増えたとは言え、交通至便とは言いがたいこの区域に昔から繁盛している店である。

口コミでジョジョの奇妙な冒険、ではなく徐々に知られるようになり、今やラーメンの特集本では掲載されていない方が少ない大人気店、なぜか今まで一度も入ったことがない。深大寺そば行脚でもやってない限りは行くこともないので、これをきっかけとしてみることにした。

 ここは深大寺マップを見ていただくとわかりやすいのだが、深大寺界隈の地図で言えば左側を走る「武蔵境通り」に面している。左上の植物公園口と左下の深大寺通り入り口のやや深大寺側に近いところにこの店はある。店の外に椅子が並べてあり、店内が満席の場合はここで待つことになる。私も約十分待たされた。

 さて、順番が来て店内に入る。食券制になっており、数あるメニューからオーソドックスな「らーめん」を購入した。他には「ちゃーしゅーらーめん」、「平打ちらーめん」や「塩らーめん」などかなり種類があるようだが、そば行脚よろしく基本の味で攻めてみる。

 人の良さそうなおっさんがヘルプの若いあんちゃんたちと楽しそうにマイペースでやっている。混もうが空いてようがお構いなしって感じ。ペースをあげて客の回転を早くして効率的になんてことは頭にはないのだろう。客も常連・馴染みが多いようで、文句一つ言う訳でもない。なんかのんびりしていて「ま、いっか」てな風に思ってしまう。これも策略のうちだろうか?

 さて、食券を渡し席についてから、またまた十分ほど待たされた。おそらく今まで入ったラーメン店のなかで、座って注文して出てくるまでの時間で一番長い部類だろう。まったくマイペースだ、だが「ま、いっか」と思ってしまう。ようやく出てきたらーめん、濃い目の色の醤油スープ。麺は中くらいの太さのストレート、黄色味が強く、卵黄でつないでいるのがわかる。細めのメンマが適量に盛られ、大きくて厚めの脂身使用のチャーシューが一枚。ネギが適当に散りばめられ、一番上にナルトが乗せられている。見た目はオーソドックスな東京ラーメンそのもの。スープを口に運ぶ、魚の香りが淡く漂うが予想より強くない。店名に「にぼし」と謳っているくらいだし、開店当時(もう20数年前だと思うが)は魚系の出汁を前面に押し出す店はまだまだ無く、その面では草分け的な店でもあり、ゆえに口コミで広まり人気が出た店の割にはさほどインパクトは無いので不思議に思った。最近の魚系出汁をウリにしている店のほうが香りが強い。二口・三口と啜るうちにその謎はとけた。最近の店は「かつお」や「さば」節をけっこう大量に用いて香りを強調しており、そのスープを知っていたので香りが弱く感じたのだ。また、香りの強いスープは、結果的に「鰹風味の本だしラーメン」になってしまい、かえって味が薄っぺらく感じていた。しかしここのスープは香りの強さという面に置いては今風の店に及ばないが、かえって地味ながら何も邪魔しない領域に落ち着いているようだ。啜るうちにだんだんと香りも見えてきた。

麺はしっかりコシがあり、スープとの絡みも良い。薄味に仕上げられたチャーシュー・メンマといい、すべて「にぼし」の出汁を殺さないように計算されたのか?

ただ、どれをとっても格別抜きん出ているものはなく、最初の一口目は「ん?」という感じしか受けない。それなのになんだか口に運ぶうちに止まらなくなり、結局はスープも残さず飲んでしまい、あげくは大声で「ごちそうさん」と言って店を出てきたのである。

 なんか、してやられたような不思議な味である。郷愁をそそるというのか、へたうま感覚とでも言うのか。それでも「また、行ってみっか」なんて気分にさせてしまう謎の店である。いまだもって、旨かったのかどうかもよくわからない、不思議だ。

ただ、一つだけ言えるのは、奥様は魔女だったのです・・・、ではなく、脂ごってり&とんこつ系の方には確実に向かないと思うので、そのあたりは含みおきください。

ホームページもあるので興味ある方はご覧ください。店名で検索するとヒットします。

 

 

 

 

深水庵

 

実に久しぶりの行脚となる。ここのところ仕事がたてこみ思うようにならないこともあってなかなか深大寺に行けなかったのである。などと言って、先々週に深大寺を訪れてはいたのだが、つい湧水さんにお邪魔してしまったのである。しばらくぶりで、いい加減そば切れ状態だったもので旨いのが食べたくて・・・。

  さて、この日は「深水庵」さんにお邪魔してみた。広い駐車場の奥に木造2階建ての大きな店構え。中に入ると椅子席が並んでいる。至るところになにやらポットだのの営業用什器備品やがらくた(失礼!)が置いてあり雑多な感じは否めない。座敷席は南向きに長く構築してあり日当たりも良くこちらは実にすがすがしい感じだ。品書きをみると、もり600円、大瓶550円となっている。深大寺標準値段といってよい。その他野菜天400円、そば豆腐250円などどこかで見たようなメニューならびに価格である。それもそのはず、ここは湧水のご主人のご実家なのである。現在はお兄さんがこちらの本家を継いでおられるとのこと。メニューが似ているのはそのせいなのであった。

 もりとビールを頼む。店員の応対はなかなか好印象である。ビールをやりながら待つことしばし、もりが運ばれてきた。なかなか太めである、いや中太と言った方が適切か?さっそくつゆにくぐらせて手繰る。コシが強い!これは過去食べてみた中でも五本の指に入るくらい強い(当然深大寺以外の店も含めてだ)。ここで湧水さんのそばのコシの強さに合点が行った。ただし、湧水さんはご実家とは違う味をだそうと「細いそば」でのコシを工夫されているのであろう。深水庵さんのこのコシが原点と言えるのだろう。太さの分、コシの強さに限っては深水庵さんに軍配があがる(逆に湧水さんはあの細さにもかかわらず充分強いコシを出しているとも言える)。そばの風味もあり旨い。

ただ、つゆが今ひとつインパクトに欠けるような気がする。深大寺に多く見られる「甘くて口の中がべったりしてしまう」つゆではなく、さっぱりとした充分合格ラインのつゆなのだが・・・・。

ここで、蕎麦通本に書かれていたことを思い出した。それによると、そばつゆは鰹出汁の香りがしてはならないとのこと。香りがあるとそばの風味が飛んでしまうからなのだそうだ。その意味ではこちらのつゆは正統であろう。しかし、私はほんのりと邪魔しない程度の香りはあっても良いのではないかと思っている。そばの風味を楽しむならつゆをちょこっとだけつけて食べれば事足りる。なおかつつゆの味・香りも楽しみたい場合だってあるわけで、そんなときにはざんぶりとくぐらせて食べればいい。両方楽しんだっていいではないか?ただし、確かに香りがきつ過ぎては本末転倒、そばとの相性を考え加減することが「工夫」というものではないか?これは飽くまでも私の独断と偏見なのであまり参考にはならないと思うが一言だけ付け加えておく。

 なにはともあれ、充分合格点のだせる味であると思う。実は、こちらのお店についてはいろんな深大寺蕎麦の食べ歩きのHPがあり、「旨い」という人と「普通」だという人に半々くらいで評価が分かれている。おそらくコシが「強くていい」という人と「強すぎてどうも」という人とに別れているのではないだろうか?つまりは個人の趣向の問題となる。

そこで私個人としては「これくらいコシがあっても良い」、しかしながら「つゆはもう少し鰹出汁の香りがあったほうが良い」という見解となる。総合評価非常にむずかしいところだが、前述の通り、甘くべったりするつゆとは根本が違うので「A」にランクしても良いと思う。

 

 

玉○

 

 武蔵境通りから深大寺通り(MAP参照)に入ってすぐ左手の一番バス通りから近い場所に位置したかなり古くからあるお店。何年か前に一度だけ入った記憶はあるのだがあまり印象に残っていないので、再度チャレンジする(あやふやな記憶での評価はしないのだ。なんて公平なんだ!)。

 店内は日当たりもよく清掃も行き届いていて気持ちがいい。四人掛けのテーブルが空いていたのでそこに陣取る。早速もりとビール中瓶を頼む。麒麟の一番絞りだった。わたしは基本的なラガーファンなので・・・・まあ、いいか。値段はもりが550円、ビール550円と安めの設定。ビールをやりながらしばし待つ。おばちゃんがもりを運んで来てくれた。色は白くもなく黒くもなく中庸といったところ。太さも中くらいか。つゆも辛過ぎず甘過ぎずこれまた中庸。そばを手繰ってみる、こしはなかなかあるし、そばの味もほんのりとするが、手打ちではない。あきらかに機械打ちのそばである。機械打ちとしては美味しい部類なのかもしれないが、なにかこう特徴に欠ける(機械打ちで特徴出せと言う方が無理か!)。いわゆる出前もしている町のおそば屋さんと言った感じである。

 店内をなんとなく見渡していたら五稜郭の土方歳三みたいな出立ちの(歳さんの遺影にあるような洋装に、胸元に「誠」の字が・・・)、朱鞘の刀を左手に下げた垢抜けない(失礼!)男性のポスターが目に入った。「美○き○し」さんと仰る地元の方で、なんでもCDを出したとか。歌のタイトルは、「近藤勇」。あの出立ちでは違和感があるなあ。同時収録の曲はなんと「新・調布音頭」だし。来年の大河ドラマ「新選組」に向けての町興しのようである(近藤勇先生は調布の生まれであらせられる!)。実はこの方、すでに行脚した某店の二代目なんだと!そば組合の新年会でも居並ぶ諸先輩方を前にこの歌を披露したらしい(度胸あるなあ!)。大河ドラマで取り上げられることは地元にとっては一大イベントなんだなあと妙に納得したりして。しかし、新選組と深大寺そばは直接関係はないと思うのだが・・・まあ、いいか。そういえば深大寺そばに対抗してなのか、歳さんの地元日野では「手打ちうどん」で売り出しをかけているし。

 そんな取り留めのないことを店主やおばちゃんと、なごやかに会話してしまった。なかなか話し好きの店主とみえ、気さくな雰囲気にランクをおまけしたくなったが、やはり公平にみて、「Bランク」としたい。

 

 

深○茶○

 

 深大寺周辺は古戦場でもあり、その昔深大寺城なる砦もあったところだ。従い江戸時代の平城を築城するような平坦な土地ではなく起伏に富んだ場所でもある。今回の店はそうした小高い丘の中に一軒だけぽつんと離れたところにある。木々に囲まれ静かなせせらぎの音が聞こえるロケーション的には最高のところだ。

土間に置かれた緋毛氈の椅子に腰掛ける。いつも通り、もりとビールを頼む。もりが600円、中瓶は550円と通常値段。新緑の美しさにしばし時を忘れる。

さて、出て来たそばは太い平打ち。実は深大寺でこの手のそばはあまり良いものがなくいやな予感がよぎった。さっそく口に運ぶ、水切りが悪くびしょびしょだ。わっぱの隙間からもけっこう水が漏れてるし・・・。乾かないようにとの配慮なのだろうか?食べてびっくり、これだけびしょびしょなのに生ぬるい。しめ方そのものも悪い。部分的には冷たくしまってるところもあるがムラがあり過ぎる。つゆもただでさえ希薄な感じがするのに加えて水切りが悪いのでどんどん薄まってしまう。食べ終わるころにはそば湯を必要としないくらいになってしまった。そばそのものは普通だが、手際が悪い。たまたまなのだろうが、悪いときにかちあってしまったようだ。ロケーションが良いだけに残念である。ランクはCとさせてもらう。旨い店と比べて文章が短くなってしまうのは致し方ないところか・・・。

 

 

青○屋

 

 ここはいつ営業してるのかよくわからないところだ。一説では、ここは支店で本店は違うところにあるのだとか。従い、土日祭日しかやってないとか、平日は昼だけかもしくは法要などでの宴会がはいってときしかやらないなどの噂も飛び交っている。私も閉まっているところしかあまり見たことがない。刀剣界には「郷(名工郷義弘。相州伝の傑作鍛冶の一人)と幽霊は見たことがない」=在銘がない上に遺作も少なくほとんど出回らないことをあらわす例えがあるが、そんな感じである。

 昼時を外して通りかかったら珍しく開いていたので入ってみた。その日は少し冷え込む天候だったのだが、いきなり水が出てきた。そば屋といえばやっぱりお茶だろうに。真夏の暑い時に気を利かせてならわかるが、もう11月というのに。回りを見渡すと二人連れの年配の女性客がいたが、やはり水だった。要は、お茶を入れてないってこと。普段営業してないからたまたま開けてるような時はお茶も出さないってことなんだろうか。

 もりは600円と安めの設定。ビールは大瓶700円、中瓶は深大寺ビールという地ビールのみ550円。他店とはちょっとビールに関しては比較できない。

さて、もりだが、つるつるとした表面、揃いも揃ったなが〜い麺で一目で機械打ちとわかる。つゆは、前々から私が言ってるように、深大寺の老舗といわれる店に多い「甘くて濃すぎる」つゆ。猪口が異様に冷やしてあり、つゆも冷えている。冷蔵庫から出したばっかりといった感じ。量は多いがただそれだけと言ったもの。

お茶もないくせに、蕎麦湯はポットに入れて持ってきた(逆じゃないのか!)・・・。おそらく深大寺ではこんな出し方するところ他にはないんじゃないのかな?

ランクは「C」とするしかない。

*お茶については、本来蕎麦湯を楽しむもので「蕎麦屋」は茶など出さないというのが昔の慣習だと聞いたこともあるが、そんなの今の世代の我々(私?)には関係ないのだ!

 

 

 

番外編:鬼太郎茶屋

 

 上の方で一軒閉店した店をそのまま利用してオープンしたのが「鬼太郎茶屋」です。そばはやっていません。鬼太郎グッズが各種取り揃えてある他、茶屋ですから一服できます。なぜ鬼太郎なのかって?調布には水木しげる先生が長きに渡ってお住まいなのです。先生の生まれ故郷の鳥取県境港市とは姉妹都市なのである・・・、だったっけな?

 

 

 

 

今のところこういった店を食べ歩きました。あと残りについては実はあまり気が進まなくなっておりまして(理由はいろいろありますが、まあ推して知るべし的評判のこともありまして)この辺で小休止とさせていただきます。

 そのうちに気が向いたら再開の運びとさせていただきます・・・・。

 

 

 

価格早見表

もりそば

 

800円: 陣○

750円: 雀のお宿

650円: き○し 玉乃屋 一○庵 松葉茶屋 門○そ○

600円: 大○○屋 湧水 元○○○屋 八○ 鈴○ ○福○屋

      時○茶○ 深○茶○ 深水庵

550円: 多○ 玉○

 

 

ビール中瓶

 

600円   : 雀のお宿

550円+小鉢: 一○庵 門○そ○ ○福○屋 時○茶○

550円   : 深水庵 き○○ 玉○ 深○茶○

500円+小鉢: 松葉茶屋 元○○○屋 八○ 多○ 陣○ 鈴○

500円   : 大○○屋 玉乃屋 湧水

 

 

 

 

 

食べ飽きてもどる

 

 

 

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